2013年に「2020年の東京オリンピック開催」が決定してからというもの、東京を中心に訪日外国人を主なターゲットとしたホステルが次々に開業しています。
しかし、ホステルの運営は決して簡単ではありません。
せっかく開業したホステルを長続きさせるためには、ホステルの利益構造をしっかり理解し、必要な利益を確保するための事業計画が必要です。
今回は、「利益」についての基礎知識と、ホステル運営で利益率を上げるための考え方について説明します。
ホステルの利益構造について
「利益」とは、「売上」から「費用」を引いたものです。
これはホステルに限らず、すべてのビジネスに共通する原則です。
ですからホステルの利益構造を知るには、まずホステルの売上の仕組みとホステル運営に必要な費用について理解しておく必要があります。
宿泊のみのシンプルなホステルの場合、売上は「定員稼働率×客単価」です。
定員稼働率とはホステルの宿泊定員(ベッド数)が実際に利用されている割合のことで、客単価は一人あたりの宿泊料金になります。
たとえば定員10名(ベッド数が10)、稼働率が50%、宿泊料金が3,000円というホステルの場合、ひと月あたりの売上は「10×0.5×3,000×30=45万円」というわけです。
一方、ホステル運営にかかる費用は「原価+販売費および一般管理費」です。
原価とは物件の取得費用や維持費用のことで、たとえば賃貸物件の場合、毎月の家賃と光熱費、リネンや消耗品などの合計が原価になります。
販売費は販売手数料や広告宣伝費のことで、たとえば「じゃらん」などの予約サイトを利用する場合はその手数料が、宣伝にWEBや紙媒体を利用する場合はその広告費用が含まれます。一般管理費は人件費や交通費などです。
仮に毎月の家賃が15万円、光熱費が8万円、リネンや消耗品が1万円であれば、原価は「24万円」です。
さらに自前のホームページの維持管理が1万円、アルバイト代として10万円を支出すれば、販売費および一般管理費は「11万円」となります。
つまり費用の合計は「35万円」です。
売上から費用を引いたものが利益ですから、このホステルの利益は「45万-35万=10万円」となります。
物件改修費や設備購入費コストなどを差し引いた額が利益になる
ホステルの利益構造について理解したら、次は「利益率」を計算します。
利益率とは、「売上に対し利益がどれくらい出るか」を表す割合です。
ホステルの経営を安定させるには、できるだけ高い利益率を目指す必要があります。
この利益率の計算式は「利益÷売上×100」で表します。
さきほど例に挙げたホステルは、利益が10万円、売上が63万円でした。
この数字を使って利益率を計算すると、「10万÷63万×100=15.9%」となります。
ちなみに、ホテル・旅館業の利益率は10%が標準、20%が目標とされているので、15.9%という利益率はかなり優秀な数字といえるでしょう。
利益率を上げるには?
利益率を上げるには、売上をできるだけ上げつつ、費用をできるだけ抑えることが必要です。
ホステルの場合、売上を上げる具体的な方法は「定員(ベッド数)を増やす」、「稼働率を上げる」、「宿泊料金を上げる」のいずれかです。
もちろん、無理に定員を増やそうとすれば使い勝手に影響が出ますし、料金を上げ過ぎれば利用者に敬遠されます。
稼働率を上げるには、ホステル自体の質や魅力を高めることや宣伝をすることが有効ですが、これには費用がかかります。
一方、費用を抑える方法としては「物件の取得費用や賃料を抑える」、「光熱費を節約する」、「人件費や宣伝費などを抑える」といったものが挙げられます。
ただし合理的な範囲を超えて節約し過ぎると、ホステルの質を悪化させるので要注意です。
このように、売上を上げるにしても費用を抑えるにしても、バランスが非常に重要です。
開業準備の段階であらかじめホステルのコンセプトやターゲットをしっかりと決め、計画的な物件選びや施設設計、料金設定や運営方法の決定を行うべきでしょう。
ホテル業界で利益率の高い企業一覧
平成27年−28年の利益率ランキングによると、ホテル業界の利益率トップ3は「オリエンタルランド」「パレスホテル」「西武HD」となっています。
1位のオリエンタルランドは、利益率15.9%です。
オリエンタルランドといえば東京ディズニーランドの運営会社として有名ですが、日本で唯一「ディズニーホテル」の運営権を持っているのもこの会社です。
ディズニーのブランド力に加え、集客数の多い東京ディズニーランド、東京ディズニーシーと隣接・一体化していることが、高い利益率の秘密といえるでしょう。
2位のパレスホテルは、利益率11.7%です。
パレスホテルといえば、皇居前の「パレスホテル東京」を中心に、高級ホテルブランドとして知られています。
国内外の富裕層をターゲットにして、ホテル業界の御三家(帝国ホテル東京、ホテルニューオータニ、ホテルオークラ東京)を超える客単価を実現していることが高い利益率を生み出しています。
3位の西武HDは、利益率11.3%です。
「プリンスホテル」のブランドで有名な西部HDは、国内外で50以上のホテルを展開しています。
大都市圏の中心や主要駅に面したシティホテルは立地のよさだけでなく、大規模宴会場など宿泊以外の利用も多いのが特徴で、一方のリゾートホテルはスキー場やゴルフ場などと一体運営することで高い集客力を誇っています。
利益率の高いホテルはいずれも「施設の立地」や「施設そのものの魅力」、「明確なターゲット設定」と「単価設定」といった特徴を持っています。
利益率を上げるこうした考え方は、小規模なホステルでも十分に応用できるでしょう。
まとめ
今回は、ホステルの利益構造や利益率を上げる仕組みについて説明しました。ポイントをまとめると以下になります。
◆ホステルの利益構造
・ホステルの売上は「定員稼働率×客単価」
・ホステル運営にかかる費用は「原価+販売費および一般管理費」
・利益率の計算式は「利益÷売上×100」
◆利益率を上げるには
・売上を上げる:定員(ベッド数)を増やす、稼働率を上げる、宿泊料金を上げる
・費用を抑える:物件の取得費用や賃料を抑える、光熱費を節約する、人件費や宣伝費などを抑える
開業前にホステルのコンセプトやターゲットをしっかり決めること、物件選びや料金設定の際に細かくシミュレーションすることはとても大切です。
ここまでの内容を、ぜひホステル開業の参考にしていただければ幸いです。